呼吸器疾患

呼吸器の疾患は、緊急時には命に関わる恐ろしい病気です。クシャミ、鼻水、咳、呼吸が早いなど、呼吸の様子がいつもと違う時は対応が必要になります。感染から発生する鼻炎、気管支炎、肺炎や、気管が狭くなってしまう鼻咽頭狭窄や気管虚脱など、原因によって治療が異なります。病態の正確な評価も大切ですが、緊急重症時には、酸素投与にて命を繋ぐ事が最優先となる場合も多々あります。

鼻炎(感染性)

「聴診を伴う身体検査」鼻の状態が悪い場合は上部気道や鼻から「ブブッ」と異常な音が出ていたり、口を開けて開口呼吸をしている場合あります。歯周炎の悪化により、鼻炎が発生する事もあり口腔内も注意深く観察します。

鼻炎症状による鼻汁排出

「レントゲン検査」レントゲンにて、鼻の状態を評価します。鼻腔左右のレントゲンの色調や中隔変異などの異常がないか確認できます。

「血液ガス分析検査」血液中の酸素と二酸化炭素の量を評価します。呼吸困難の評価を行います。

「病原菌に対するPCR検査」上部気道の感染に対しては、PCRスクリーニングを実施します。病原菌やウイルスが特定できた場合に関しては、個別での対応が可能になります。

「細菌培養薬剤感受性検査」感染源が細菌の時には、どの抗生物質が有効であるのか培養の検査で判断が必要になることもあります。

治療

まずは内科治療を開始します。抗生物質の投与とネブライザー治療が中心です。ウイルス疾患が疑われる場合は、インターフェロンの使用や抗ウイルス薬を投与します。治療への反応が不十分な場合は、細菌培養やPCR検査を行います。すでに行っている場合は、異物や腫瘍などが潜んでいないか確認するため、さらなる検査が必要です。

鼻咽頭ポリープ

中耳より発生したポリープが、耳管を介し咽頭に向かい拡大していきます。内耳炎の原因としても重要ですが、咽頭部分で拡大すると呼吸困難の原因となります。

当院で行う検査

「聴診を伴う身体検査」鼻炎と同様に状態が悪い場合は上部気道や鼻から「ブブッ」と異常な音が出ていたり、口を開けて開口呼吸をしている場合あります。腫瘤が大きい場合は、呼吸困難が顕著になります。

「レントゲン検査」レントゲンにて、鼻の状態を評価します。腫瘤大きい場合は、レントゲンで確認できます。

摘出前

「血液ガス分析検査」血液中の酸素と二酸化炭素の量を評価します。呼吸困難の評価を行います。

「CT/MRI検査」鼻咽頭ポリープは耳から発生しているため、内耳の状態を正確に評価する場合は、断層撮影が必要です。同時に鼻の中の構造も評価します。

「内視鏡での鼻腔咽頭検査」内視鏡を用い、鼻腔咽頭の状態を評価します。腫瘤が認められる場合は、生検や摘出も行います。

「病理組織検査」生検が可能であれば病理検査を実施します。組織学的にポリープなのか、腫瘍なのか判断することは今後の対策のため重要です。

治療

治療には外科的な摘出が必要です。中耳から発生しているため、鼓室内まで含めて摘出を行う事が理想とされます。実際には、呼吸や全身状態状態の悪化があり、咽頭部分の腫瘤のみ摘出することもあります。摘出を行うと呼吸状態が改善します。

咽頭部分の腫瘤を確認
摘出後

鼻腔内腫瘤

鼻腔内に発生した腫瘤により、鼻炎や鼻閉などの呼吸症状を発生します。腫瘤の大きさは併発する炎症により、呼吸状態はまちまちです。内科治療に反応が悪い鼻炎は、腫瘤の発生を疑う必要があります。

当院で行う検査

「聴診を伴う身体検査」鼻炎と同様に状態が悪い場合は上部気道や鼻から「ブブッ」と異常な音が出ていたり、口を開けて開口呼吸をしている場合あります。腫瘤が大きい場合は、呼吸困難が顕著になります。

「レントゲン検査」レントゲンにて、鼻の状態を評価します。腫瘤大きい場合は、レントゲンで確認できます。

「血液ガス分析検査」血液中の酸素と二酸化炭素の量を評価します。呼吸困難の評価を行います。

「CT/MRI検査」鼻腔内腫瘤は断層撮影が有効です。特に篩骨(鼻の前方)に発生してる腫瘤の評価には欠かせません。

「内視鏡での鼻腔咽頭検査」内視鏡を用い、鼻腔咽頭の状態を評価します。腫瘤が認められる場合は、生検や摘出も行います。レントゲンで鼻咽頭に腫瘤が認められる場合は、こちらを先に実施することもあります。

「病理組織検査」生検が可能であれば病理検査を実施します。組織学的にポリープなのか、腫瘍なのか判断することは今後の対策のため重要です。

治療

病理検査の結果により治療方針が決まってきます。腫瘍と診断された場合には、外科手術、化学療法、放射線療法などを実施するか相談を行います。炎症性肉芽腫などの場合は、内服やネブライザーで維持をすることもあります。

鼻咽頭狭窄

鼻咽頭部分の狭窄により呼吸困難が生じます。先天性のものと、炎症による瘢痕収縮から発生するものがあります。鼻炎や鼻閉症状があり、慢性鼻炎として放置されてしまっている可能性もあります。

当院で行う検査

「聴診を伴う身体検査」鼻炎と同様に状態が悪い場合は上部気道や鼻から「ブブッ」と異常な音が出ていたり、口を開けて開口呼吸をしている場合あります。

「レントゲン検査」レントゲンにて、鼻の状態を評価します。特に大切なのは、吸気と呼気での鼻咽頭部分の状態の変化です。うまく撮影できると、診断に繋がる画像が得られます。

青矢印が鼻咽頭部分の狭窄

「血液ガス分析検査」血液中の酸素と二酸化炭素の量を評価します。呼吸困難の評価を行います。

「内視鏡での鼻腔咽頭検査」内視鏡を用い、鼻腔咽頭の状態を評価します。閉塞がある場合は、狭窄部位にて塞がれていて鼻腔内の観察ができません。

治療

内視鏡で確認後、バルーンでの拡張を実施します。十分に拡張ができた様であれば、呼吸状態は改善します。炎症による再狭窄の発生には注意が必要です。

青矢印が狭窄部位
狭窄のため鼻腔内が観察できない
青矢印の狭窄部、バルーンにて拡張を実施
狭窄が改善し、鼻腔内が十分に観察できる。

気管虚脱

気管を支える軟骨組織が、脆弱になることにより発生する病気です。呼吸時に気管が潰れてしまいます。「ガーガー」という特徴的な音や、咳などの症状があらわれます。特に興奮した時に症状が悪化します。

当院で行う検査

「聴診を伴う身体検査」呼吸時に発生する異常音を確認します。吸気時間と呼気時間の長さを比較したり、いつ異常音が発生するかを観察します。聴診器での聴診も行います。

「レントゲン検査」レントゲンにて、気管の状態を評価します。吸気時と呼気時に撮影し気管の扁平化を確認します。咽頭部分や肺の異常がないかも評価します。

気管が広がっている状態
吸気により気管が潰れている状態

「血液ガス分析検査」血液中の酸素と二酸化炭素の量を評価します。呼吸困難の評価を行います。

「気管支鏡検査」内視鏡を用いて、咽頭から気管まで確認することもあります。

治療

多くの場合は内科治療で対応します。症状の緩和が目的となります。ネブライザー治療、気管支拡張や抗炎症の内服薬、注射薬などを組み合わせます。症状が重篤化した場合には、外科手術により気管を広げる治療を行うことになります。

肺炎(感染性・誤嚥性)

肺に炎症が発生して、咳や呼吸困難を発生します。原因は細菌やウイルス感染、誤嚥性など様々です。呼吸状態が著しく悪化するため、命に直結する場合があります。炎症の原因を治療する必要があります。同時に悪化した呼吸状態を支える治療も必要です。

当院で行う検査

「聴診を伴う身体検査」呼吸状態が悪い時には、先に酸素投与を行い状態の安定化を優先します。呼吸数や可視粘膜の色調などに注意しつつ、全身状態を把握します。聴診器を用い、肺野から発生する雑音を注意深く確認します。

「超音波検査」状態が悪い場合は、酸素投与を行いながら検査可能です。胸部に超音波プローブを当てることで、肺野の状態を評価します。同時に胸水や心嚢水の除外もおこないます。

「レントゲン検査」レントゲンにて、肺の状態を評価します。胸部の色調により、肺全体のどの程度まで炎症が広がっているかを評価します。

「血液ガス分析検査」血液中の酸素と二酸化炭素の量を評価します。呼吸困難の評価を行います。

「気管支肺胞洗浄」気管支肺胞洗浄を実施し、肺から検体を回収します。細胞診や細菌培養検査が実施可能です。肺炎の原因を特定するために必要な検査です。

治療

酸素室での呼吸補助を行いながら、抗生物質を中心とした治療を行います。酸素投与と痰の排出を助けるため、パーカッションベンチレーターでの治療も有効です。免疫疾患や腫瘍疾患の場合は、個別に治療法が追加されます。

気胸

何らかの原因で胸郭に空気が入り込んでしまった状態です。肺が破れてい空気が漏れる場合と、胸壁が破れて空気が入り込んでくる場合があります。気胸になってしまうと、肺が十分に膨らむことができずに呼吸困難におちいります。

当院で行う検査

「聴診を伴う身体検査」呼吸状態が悪い時には、先に酸素投与を行い状態の安定化を優先します。呼吸数や可視粘膜の色調などに注意しつつ、全身状態を把握します。気胸の場合は、肺音が聴取されにくい部分があるかもしれません。

「レントゲン検査」肺と胸郭の状態を確認します。気胸の場合、肺と胸郭の間に黒い領域が描出されます。

「超音波検査」状態が悪い場合は、酸素投与を行いながら検査します。胸部に超音波プローブを当てることで、肺野の状態を評価します。同時に胸水や心嚢水の除外もおこないます。エコー検査も補助的に使用します。

「血液ガス分析検査」血液中の酸素と二酸化炭素の量を評価します。呼吸困難の評価を行います。

治療

胸郭内に溜まった空気を抜くことが必要です。症状の改善が乏しい場合や再発を繰り返す時には、カテーテルの設置や手術が必要になることもあります。胸壁の穿孔がある場合は破綻部分の修復が必要です。肺が破れてしまっている場合は、肺の部分的な切除なども検討されます。 

胸水

何らかの理由で胸腔内に液体が貯留してしまう状態です。液体貯留により肺が十分に膨らむことができなくなり、呼吸困難の症状が発生します。貯留する液体は原因によって異なります。漏出液は循環不良により、参出液は炎症により、乳びはリンパ管の損傷により、膿胸は感染により発生します。原因の根治は必要ですが、液体が溜まったままでは呼吸困難におちいるため、早急に除去する必要があります。

当院で行う検査

「聴診を伴う身体検査」呼吸状態が悪い時には、先に酸素投与を行い状態の安定化を優先します。呼吸数や可視粘膜の色調などに注意しつつ、全身状態を把握します。聴診器を用い、肺野から発生する雑音を注意深く確認します。

「レントゲン検査」肺と胸郭の状態を確認します。胸水の場合、肺と胸郭の間に白い領域が発生します。心臓の辺縁も不明瞭になります。

胸水貯留により心陰影が不明瞭

「超音波検査」胸部に超音波プローブを当てることで、肺野の状態を評価します。胸水の量や腫瘤など無いか確認をおこないます。

「胸腔穿刺・胸水抜去」治療と検査の目的で行います。液体を抜去することで、呼吸状態の改善を目指します。同時に貯留液の状態を把握し、確定診断への手がかりとします。

「血液検査」血身体検査と合わせて、全身のスクリーニングを行います。白血球の数やCRP/SAAなどの検査で炎症反応の確認も行います。

「血液ガス分析検査」血液中の酸素と二酸化炭素の量を評価します。呼吸困難の評価をおこないます。

治療

胸郭内に溜まった液体を抜くことが必要です。症状の一時的な改善と診断が得られた後は、原因を治療し胸水の再貯留を防ぎます。再発を繰り返す時には、カテーテルの設置が必要になることもあります。循環不良の場合は、心臓の評価も行い治療を開始します。感染などの場合は、積極的な抗生物質投与が必要です。

短頭種気道症候群

短頭種に多く見られる呼吸器系の異常です。軟口蓋過長と鼻孔狭窄を併発し、呼吸時の抵抗が増します。程度により、「カッカッ」や「ガーガー」などの音が発生します。

当院で行う検査

「聴診を伴う身体検査」呼吸数や可視粘膜の色調などに注意しつつ、全身状態を把握します。呼吸様相として、吸気時間の遅延など認められます。聴診器を用い、音の発生部位を注意深く探索します。

「レントゲン検査」吸気と呼気のレントゲンを撮影し、気管虚脱やその他疾患の併発が無いか確認します。咽頭部分を評価し、軟口蓋のサイズを評価します。

「咽頭/喉頭検査」軽い鎮静麻酔などを行い、咽喉頭の確認を行います。軟口蓋過長の有無、披裂軟骨の評価などを行います。

「血液ガス分析検査」血液中の酸素と二酸化炭素の量を評価します。実際に呼吸困難が発生しているか評価をします。

治療

過剰になっている軟口蓋の切除と、鼻孔拡張手術を実施します。切除範囲は過剰になりすぎない様、症状の軽減を目標とします。

肺腫瘍/肺転移

肺にできてしまった腫瘍病変のことをさします。初期は症状が認められない事があります。進行するにあたり徐々に、咳や呼吸困難などの症状が発生します。足先が腫れたり、白血球数が増加したりなどの症状も認められる事があります。肺で発生した原発腫瘍の場合と、他の部分で発生した腫瘍の転移病変場合があります。

当院で行う検査

「聴診を含む身体検査」現在の一般状態を把握します。呼吸時の雑音聴取なども行います。

「レントゲン検査」胸部のレントゲン検査により、腫瘤の描出を行います。3〜4方向から撮影し、肺野を隈なく撮影します。

肺腫瘍による胸水貯留も認められる

「超音波検査」胸壁に隣接している場合は、超音波検査で描出可能です。描出できる病変であれば、注射針を用い細胞の回収も行います。

「細胞診」穿刺可能な病変であれば、細胞を回収します。細胞診を行い治療の方向を決めることができます。

「CT検査」レントゲンと比較すると、より小さい病変でも検出が可能です。肺の病変が「原発性」なのか「転移性」なのかを判断するためにも、CT検査は必要です。

治療

原発腫瘍なのか、転移病変なのかによって治療法がかわってきます。原発病変であれば、手術による摘出も検討します。転移病変である場合は、手術などの局所治療ではなく、化学療法や免疫療法などの全身治療が必要になってきます。

猫喘息

咳や呼吸困難を発生する気管支の炎症病変です。アレルギーの関与が考えらています。感染症や腫瘍、心疾患など、他の疾患を除外した上で診断となります。早期に対応すると治療への反応は良いですが、放置しておくと気管が肥厚し治療への反応が悪くなってしまします。

当院で行う検査

「聴診を含む身体検査」現在の一般状態を把握します。呼吸時の雑音聴取なども行います。喘鳴音と言われる「ヒューヒュー」高い音が聞こえることがあります。

「レントゲン検査」気管支炎を疑う所見を確認します。肺腫瘍やその他の疾患も除外します。 

「細菌培養・PCR検査」咳の原因となりうる感染症を除外するために、細菌培養やPCR検査などを行います。

「気管支肺胞洗浄」麻酔下で気管内に細いカテーテルを挿入し、気管支や肺胞から検査材料を回収します。上記の細菌培養検査に用いたり、塗抹標本を作成し細胞診へ依頼します。

「アレルギー検査 IgE測定」アレルギーが関与しているとされており、アレルギー検査が治療に役立つ場合もあります。

治療

重症度や猫の許容度により治療法が異なります。呼吸困難が発生している場合は、酸素化を行い呼吸を安定させる事が最重要です。アレルギーが関与する疾患であり、免疫反応を抑える薬の使用が必要です。投薬治療と吸入投与があります。どちらも困難な場合は、長期間作用するタイプの注射薬を使用する場合もあります。